ワンちゃんやネコちゃんにどんなフードを与えてあげればいいのか、飼い主様からよくお悩みの声を聞きます。

そこで、今回はフードを選ぶときにに大切な「原材料」についてのお役立ち情報をお知らせします。

ワンチャンやネコちゃんのためのフードの原材料には「肉」が適していると考える人は多いようです。でも、「肉食動物だから肉が必要」というのは、本当に正しいのでしょうか？

じつは、必ずしもそうではありません。例えば「肉」を食べると、「肉」は消化管の中で消化されて「アミノ酸」などの「栄養素」に分解されてから吸収され、体の中でさまざまな働きをします。つまり、肉食動物が必要としているのは「肉」そのものではありません。本当に必要なのは、肉に含まれるアミノ酸などの「栄養素」なのです。

原材料は「必要な栄養素をワンちゃんやネコちゃんの体の中に運ぶための手段」です。そのため原材料に求められることは「必要な栄養素を含んでいる」ことと、「その栄養素がワンちゃんやネコちゃんの体の中に取り込まれる」ことです。

栄養素が体の中に取り込まれるためには、きちんと消化されなければなりません。したがって高品質な原材料とは「必要な栄養素を含んでいる」ものであり、「消化性が高い」ものと言うことができます。とくに「アミノ酸」の供給源である「タンパク質」や、「糖質」の供給源である「炭水化物」には、高い消化性が求められます。

タンパク質には、肉や魚などに含まれる動物由来の「動物性タンパク質」と、大豆や小麦、コーンなどに含まれる植物由来の「植物性タンパク質」があります。ペットフードのタンパク質源としては、肉食動物にとって本来の食べ物である動物由来の「動物性タンパク質」のほうが消化性が高く、優れていると言われることがありますが、それは正しいのでしょうか？

例えば、フードの原材料として記載されている「チキン」と「コーングルテン」ではどちらのほうが、消化性が高いでしょうか？意外に感じられるかもしれませんが、「コーングルテン」のほうが、消化性が高いのです。
一般的に生の「チキン」は約70%が水分で、皮や骨を含んでいるため、消化率は80～85%程度です。
いっぽう「コーングルテン」というのは、コーンから取り出した「グルテン」という、ほぼ純粋なタンパク質です。そのためワンちゃんやネコちゃんでも消化性が高く、高品質なものでは消化率は90%を超えます。つまり、植物性のタンパク質源のほうが、動物性のタンパク質源よりも消化率が高いこともあるのです。

ワンちゃんやネコちゃんに「米」や「小麦」、「とうもろこし」などの穀物を与えるのは良くないことでしょうか？確かに野生のオオカミは穀物を食べません。しかし、脱穀や加熱など、適切な処理を行わなければ、人も米を消化することはできません。

穀物には「糖質」の供給源である炭水化物が含まれています。肉食動物であるネコちゃんや、肉食性の雑食動物であるワンちゃんにとっても「糖質」はエネルギーのもとになる大切な「栄養素」です。ワンちゃんやネコちゃんが利用できるように加工された適切な量の「糖質」を含むフードは、「糖質」をエネルギー源として利用することで、「タンパク質」をより効率的に利用することができる、優れたフードです。

原材料に穀物が使われているかどうかよりも、穀物に含まれる「糖質」がきちんと体に取り込まれるかどうかのほうが大切です。例えば、とうもろこしの粒の皮は食物繊維を多く含むため、そのままではうまく消化できず、中に含まれる「糖質」などの栄養を吸収することができません。しかし、細かく砕いて粉にしたものであれば、中に含まれる「糖質」などの栄養素がきちんと消化されて体に取り込むことができます。

肉食動物は獲物を捕らえた後、一般的に、内臓から食べ始めます。必要な栄養素が筋肉よりも内臓に、より多く含まれているからです。つまり、ワンちゃんやネコちゃんにとっても、内臓は貴重な栄養源です。
このような内臓は、原材料の分類では「副産物」と呼ばれています。「正肉（しょうにく）」と呼ばれる筋肉の部分以外はすべて「副産物」に分類されます。「レバー」や「モツ」あるいは「ホルモン」と呼ばれるものも、すべて「副産物」なのです。
「正肉」以外は副産物ですから、骨や鶏の羽・とさか・脚なども、「副産物」に分類されます。そのため、そのような部分もペットフードに使用されていると誤解している人もいるようですが、鶏の羽・とさか・脚などの消化性や栄養価が低い部位は、ペットフードには使用されず、一般的には肥料などに利用されます。

消化の良いフードかどうかは、どのように見分ければ良いのでしょう。パッケージに書かれている原材料の表示を見れば分かるのでしょうか？

パッケージに書かれている原材料は、使用する重量の多い順番で表示するように決められています。そのため、「肉」が原材料の一番目にあるフードがワンちゃんやネコちゃんにとって良いフードだと言われることがあります。ところが、「生の肉」は約70%が水分であるため、原材料表示の一番目に書かれていても、必ずしも消化が良くて必要な栄養素を多く含んでいるとは言えないのです。

したがって、残念ながらパッケージの原材料を見ても消化が良いフードかどうかを正確に見分けることはできません。例えば、同じように「コーングルテン」と書かれていても、品質によって消化性には大きな違いがあるからです。

フードの消化の良し悪しはワンちゃんやネコちゃんの「ウンチ」をよく観察することで見分けることができます。フードを変更して「ウンチ」が適切な固さで量が少なくなれば、変更後のフードのほうが、消化性が高いことが分かります。

フードの栄養バランスがワンちゃんやネコちゃんに合っているかどうかは、どうすれば見分けられるでしょうか。ほとんどの場合、それは皮膚と毛ヅヤを見れば分かります。

ネコちゃんや小型犬では体重の約20%、中型犬や大型犬では約10～15％が皮膚と被毛に占められていて、その健康を維持するためには多くの栄養素を必要としています。例えば、わずか2種類のミネラルが必要な量を満たさなかっただけで、皮膚病になってしまうことさえあるくらいです。そのため皮膚と毛ヅヤは「栄養状態のバロメーター」といわれます。健康なワンちゃんやネコちゃんであれば、栄養バランスが合ったフードを食べていると、しなやかでツヤのある被毛をしています。

したがって、フードを変更して毛ヅヤがよくなれば、そのフードがその子に合っていると言うことができます。ただし、皮膚が新しく入れ替わるには約3週間かかりますから、フードを変更したら1ヵ月を目安に皮膚と毛ヅヤの状態をよく観察するようにしましょう。

言うまでもなく、人間とワンちゃん・ネコちゃんは、それぞれ違う動物です。そのため、食性や身体の構造をはじめさまざまな違いがあります。その主な違いを見ていきましょう。

「食性」とは、その生物が摂取する食べ物の種類のことを言います。人間は雑食動物、ワンちゃんは肉食に近い雑食動物、ネコちゃんは完全な肉食動物です。

ただし、「雑食動物だから肉も野菜も食べなければならない」、あるいは「肉食動物だから肉しか食べてはいけない」というわけではありませんので注意が必要です。

雑食動物とは「動物性の食品を摂取しなくても生きていくことができる動物」、肉食動物とは「植物性の食品だけでは、いくつかの必要な栄養素を十分に摂取することができないため、動物性の食品を摂取する必要がある動物」となります。

人間とワンちゃんとネコちゃんの消化器系の構成はほぼ同じですが、食性が異なるためさまざまな違いがあります。

・ワンちゃんやネコちゃんは食べ物を切り裂いて食べるための犬歯が発達していますが、食べ物をすりつぶすための臼歯はあまり発達しておらず、顎は左右には動きません。

・穀物などを多く食べる人間の唾液腺からは、デンプンを分解する酵素「アミラーゼ」が分泌されますが、ワンちゃんやネコちゃんの唾液腺からは分泌されません

・肉食動物の食べ物には食物繊維があまり含まれないため、肉食動物は草食動物と比べて腸内細菌の数が少なく、腸内容物1g当たりの腸内細菌数は、人間の約1,000万個に対してワンちゃんとネコちゃんは約1万個です

・食物繊維が少ない食事は消化・吸収にあまり時間がかからないため、草食動物に比べると肉食動物は腸が短くなっています
体重に占める消化管重量の割合は、人間が約11％なのに対し、ワンちゃんは約2.7～7％、ネコちゃんは約2.8～3.5％です

ワンちゃんやネコちゃんは人間と比べて嗅覚が発達しており、反対に、味覚は人間よりも発達していません。そのため、ワンちゃんやネコちゃんが食事を選ぶ際に重要な感覚は、味覚よりも嗅覚です。「その食べ物を好んで食べるかどうかの程度」を「嗜好性」と言いますが、嗅覚が発達したワンちゃんやネコちゃんでは、食べ物の匂いが嗜好性に大きく影響します。

生物が生きていくために、体内にとり入れなければならない食事中の成分を「栄養素」と言います。栄養素は、体内で3つの重要な働きをします。

栄養素には、5大栄養素と呼ばれる「タンパク質」「脂肪」「炭水化物」「ビタミン」「ミネラル」があります。そのなかでも、タンパク質、脂肪、炭水化物はエネルギー源になる栄養素であり、これらを特に「3大栄養素」と言います。

 タンパク質

タンパク質はたくさんのアミノ酸が結合したもので、体内でエネルギー源となるだけでなく、あらゆる生物にとって身体を構成するための重要な栄養素のひとつです。また、生物の体内で消化や代謝をはじめさまざまな反応に不可欠な酵素や、免疫反応で重要な働きをする抗体もタンパク質でできています。食事中のタンパク質は、消化酵素によってアミノ酸に分解され吸収されます。吸収されたアミノ酸や、体内で作られたアミノ酸から、必要な新しいタンパク質が作られるのです。

広い意味でのアミノ酸は100種類以上ありますが、身体の中でタンパク質を構成しているアミノ酸は20種類です（一般的に「アミノ酸」はこの20種を指します）。20種類のアミノ酸のうち、体内で作り出すことができず、食事からとる必要のあるアミノ酸を必須アミノ酸と言います。人は8種類、ワンちゃんでは10種類、ネコちゃんではワンちゃんの10種類に「タウリン※」を加えた11種類です。
※タウリンは厳密にはアミノ酸ではありませんが、一般的にネコちゃんの必須アミノ酸とされています。

肉食に近い雑食動物であるワンちゃんや完全な肉食動物であるネコちゃんにとって、もともと、植物性タンパク質は動物性タンパク質に比べて消化しにくいものでした。そのため、かつてはペットフードの原材料には動物性タンパク質のほうがより適しているとされてきました。しかし、加工・精製技術が進んだ現在では、動物性タンパク質よりも優れた消化性を持った植物性タンパク質も存在します。

 脂肪

脂肪のうち、食事に含まれる「中性脂肪」は、グリセリンに3つの脂肪酸が結合して構成されています。脂肪は、消化酵素によってグリセリンと脂肪酸に分解されますが、そのままでは水に溶けないため、胆汁と混ざり、「ミセル」と呼ばれる水に溶けやすい構造となった後に吸収されます。脂肪酸はエネルギー源として利用される以外にも、細胞膜や一部のホルモン、あるいは皮膚のバリア機能に必要な皮脂の構成成分になるなど、重要な働きをします。

 炭水化物

炭水化物は、消化酵素で消化できる「糖質」と、消化酵素では消化できない「食物繊維」の2つに分類されます。

■エネルギー源として利用される糖質
糖質は、糖が鎖状さじょうまたは網目状につながったものです。ブドウ糖などの単糖類に分解され、吸収されます。糖質は、身体に吸収されるとエネルギー源として利用されます。

■腸内環境を整える食物繊維
食物繊維は動物の消化酵素では分解できませんが、一部は大腸の善玉菌の栄養素として利用・分解されることで善玉菌を増やし、腸内細菌のバランスを整えたり、その分解産物が腸の粘膜細胞のエネルギー源になったりします。

 ビタミン

ビタミンは、わずかな量で体内の代謝をスムーズに行う働きをします。

ビタミンの多くは、酵素の働きを助ける補酵素として身体のさまざまな生理作用に関係する栄養素であり、「水溶性ビタミン」と「脂溶性ビタミン」に分けられます。

・水溶性ビタミン：ビタミンB群・C

・脂溶性ビタミン：ビタミンA・D・E・K

水溶性ビタミンはとりすぎても尿中に排泄されますが、脂溶性ビタミンは排泄されずに蓄積され、過剰症を引き起こしてしまうこともあります。

 ミネラル

ミネラルは身体を構成する元素のうち、炭素、窒素、酸素、水素を除いたものを指します。骨などの組織を構成したり、酵素の働きを助ける補因子になります。

ミネラルは、骨の成分であるカルシウムやリンなど、身体に比較的多く含まれる「主要ミネラル」と、それ以外の「微量ミネラル」に分けられます。たとえば、微量ミネラルのひとつである「鉄」は、赤血球の成分として身体の各組織へ酸素を運ぶための大事な役割を担います。

・主要ミネラル：カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩素、イオウ、マグネシウム

・微量ミネラル：鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、フッ素 など

ワンちゃんやネコちゃんにとって何より重要なことは、「必要とする栄養素をバランス良く体内にとり込むこと」です。そのため、ワンちゃんやネコちゃんに必要な栄養素をバランス良く配合した、消化の良い食事を選ぶことが大切です。その際、必要とする栄養素がきちんと体内にとり込まれるのであれば、原材料が動物性であるか植物性であるかなどは特に重要ではありません。

私たち人間もどうせ食事をとるなら美味しいご飯が食べたいですよね。

もちろんワンちゃん、ネコちゃんも同じです。

今回は、最適なペットフードを与えられるように「美味しさ」について考えていきたいと思います。

嗜好性とは？

嗜好性とは、ペットフードの特徴のひとつです。嗜好性の定義を簡単に表すと、「ワンちゃんやネコちゃんによって素早く、勢いよく、しかも自発的に食べられるためにペットフードの持つべき特徴」と言うことができます。

嗅覚と嗜好性

ワンちゃんもネコちゃんも、食事をする時にはまず匂いを嗅ぎます。嗅覚はワンちゃんやネコちゃんが食事をする時の最初の感覚であり、食事を選択するうえでもっとも強く影響します。

触覚と嗜好性

ワンちゃんやネコちゃんはペットフードを口に入れた後、大きさや形、硬さ、温度などを感じ取ります。口の大きさや成長段階などによって、好む大きさや硬さの傾向には違いがあります（たとえば、離乳後間もない子犬や子猫は、柔らかく、粒が小さいフードのほうが食べやすいのでよく食べます）。温度については、一般的に38～40℃くらいの食事を好んで食べます。

味覚と嗜好性

動物は味覚によって、旨味、苦味、酸味、甘味、塩味の5種類の味を感じます。ただし、動物種によってそれぞれの味を感じる強さは異なります。

犬と猫を比較すると、猫は犬より旨味や苦味を強く感じますが、甘味を感じることができません。右の図は、犬と猫が感じる5種類の味の強さを比べたものです。犬と猫の絵の頭数が多いほど、それぞれの味を強く感じることを表しています。

嗜好性の重要性

嗜好性の良い食事は喜んで食べるため、結果的にフードに含まれる栄養素がきちんと摂取されます。どんなに優れた内容の食事でも、食べなければ、必要な栄養を摂取することができません。そのように考えると、｢嗜好性｣は単に喜ぶかどうかだけではなく、必要な栄養素をバランス良く摂取するために、フードにとって重要な要素であることがわかります。そのため、さまざまな工夫や調整をして食事の嗜好性を向上させることは、非常に大切なのです。